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こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。

突然ですが、ベルト選びって難しくないですか?

実は僕、ここ10年くらいずっと同じベルトを使ってました。誕生日プレゼントで貰ったこともあり思い出深いものの、1本だけだとズボンを履き替えるときに不便…。その後も服屋さんで次の1本を探しても全然見つからなかったんです。

 

ブランド物は手が出ないし、店によってはゴテゴテの派手な装飾のバックルで自分に似合う気がしないし。結果、「今のやつでまだいいや」の繰り返し。こんな迷えるベルト難民、意外と多いんじゃないでしょうか。

 

本来、ベルトひとつでファッションの印象もがらりと変わるはず。もういい大人だし、自分に似合うベルトをちゃんと選んで使いたい……と思っていた時に出合った店が長野市にありました。

 

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OND WORK SHOP
住所:長野県長野市鶴賀田町2417 
営業時間:11:00~19:00
電話番号:026-477-2496
定休日:毎週火・水曜日
HP:http://ondworkshop.kim

 

長野の善光寺門前にある「OND WORK SHOP(オンドワークショップ)」は、ベルトや革小物など、革製品をセミオーダーで作ってくれる店です。

ただ、一つだけ注意点があります。ここではネット注文を受け付けていません。オーダーする方法は店に来て、職人さんと顔を合わせて注文すること

 

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例えばこんなベルトを、職人さんと一緒に色や形を選びながら作ってもらえます。対面で選ぶから、素材を実際に手に取りながら、自分に似合うのはどんなものか気軽に相談できる。だから、ちゃんと納得のいくものを作ってもらえます。

 

でも、オーダーって高そうって思うじゃないですか。

 

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OND WORK SHOPのオーダーベルト基本価格は5000〜12000円が目安(幅や仕様に応じて変わります)。

 

写真で腰に巻いたベルトが12000円です。

思ったよりお手ごろではないでしょうか。

 

 

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ちなみにこのベルト、僕が実際にオーダーしたものです。

「柿のベルトを作ってください!」とお願いしたら、バックルは仏壇屋さんの素材を取り寄せてくれました。柿のヘタをモチーフにして、緑色にしてくれるなんて…。柿次郎の名前に囚われている僕にピッタリの一品。

 

世界に1本しかない自分専用のベルト…!

最高…! こんなのが欲しかったんだよー!!

 

さらにベルト以外にも財布やポシェット、キーケースなどの革小物もオーダー可能。

 

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店内には素敵な作品が並んでいます。店のHPにもいろんなオーダー例が載っているので参考までに。

 

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テンションが上がって財布も一緒にオーダーしちゃいました。こちらは15000円。これまで登山用の薄いナイロン財布を愛用していて、「これぐらい薄い革を使って、同じようなデザインにできますか? あと柿の雰囲気も出してください」と気が狂ったように依頼したモノ。

 

値段はお手ごろな上、自分で選んだデザインだから愛着が湧きます。おまけに革製品は使い込むほど革の風合いが増し、壊れてもメンテナンスを受けて使い続けられる「一生モノ」です。

 

僕がこのお店を知ったのは、店主であり作り手である木村真也さんとの出会いがきっかけでした。 

 

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この風貌に加えて「直接注文しか受けないオーダー職人」と聞くと、“頑固で真面目な職人堅気”の人を想像しませんでした?

木村さん、そうでもありません。職人のこだわりと適度なダメさを併せ持っています。

 

どうして直接注文のみのオーダーショップを始めたのか? 適度にダメってどういうこと? 気になることがたくさんあるので、お店でインタビューしてきました!

 

充電期間を経て一念発起

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木村さんは長野・飯山市出身。18歳で上京し、デザイン専門学校に通ったのち、東京・蔵前のベルトメーカーに就職しました。そこで10年間修行するも、30歳のときに退職します。そして、長野市に移住。

 

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「移住後、1年半くらい充電期間があって」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「その間はなにしてたんですか?」 

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「温泉に入りに行ったり、家のソファでビール飲んだりして彼女が仕事から帰るのを待ってました。あ、夕飯も作って待ってましたよ」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「ほほう。そこからまた働こう!ってなったきっかけって何だったんでしょう」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「あるとき、彼女に『いつまでそんなことやってるの』って泣かれちゃって。そこで人は働かなきゃいけないんだって気づきました

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「この世の真理」

 

木村さんが以前、東京で勤めていたのは、大量生産のベルトメーカー。同じデザインのベルトを10万本近く製造するような仕事でした。辞めるきっかけとなったのは、とある疑問が浮かんだからです。

 

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「『これ、買った10万人全員に、絶対フィットしないよな?』ってモヤモヤするようになって。ベルトの色は黒じゃなくて茶色がいいとか、金具の形が違うとか、人によって微妙に好みは違うと思うんですよね」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「たしかに。僕はなにがフィットするのかわからないまま、なんとなく市販品を使い続けてました。大量に作られるなかから漫然と選んでると、合わないと捨てちゃいますよね」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「そうやってゴミになるかもしれないものを作りたくないって思ったんです。大量生産を否定はしないです。僕も使うことがありますから。前の会社にはめちゃめちゃお世話になってとても感謝していたのですが、でも、もっと使う人に合った、長く使ってもらえるものづくりがしたくなったんです」

 

当初は「年をとって、余裕ができたらやろう」と思っていたものづくりの夢。しかし、彼女に泣かれ、一念発起して人生設計が早まりました。「働かなければ!」となったとき、木村さんが唯一自信があったこと、それが「ベルト作り」だったからです。

今やらないと意味がない」。木村さんは自分の店を開くことを決意します。

 

「顔の見えるものづくり」がしたかった 

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「OND WORK SHOP」と名付けられた木村さんの店は、2014年10月に開店。店舗は、かつて布団屋だった築70年ほどの建物。入り口横の窓からは、木村さんのものづくりの様子を見ることができます。

 

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「なんか、お店とお客さんの距離が近い感じがしますね」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「それが理想でした。この建物に決めるときも、元々あった『小上がり』が決め手。お店っぽくしたくなくて、僕の家に遊びに来る感覚でお客さんに来てほしかったんです。お茶飲みに来るくらいな」

 

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インタビューも小上がりに座って行いました 

 

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「まさに『顔が見えるものづくり』!でも、商売としては直接販売のみってストイックに思えますけど」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「大儲けしたいわけじゃないですから。自分なりにやっていける販売目標には届いてます。ベルト以外の革小物含め、1日1点作るくらいのペースですね。お酒を飲み過ぎなければ大丈夫です」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「ちょいちょいダメさが出てる。注文は店に来なきゃできなくて、完成品の受け取りってどうなんですか?」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「発送もできますよ。取りに来てくれたら嬉しいですけど、そこまで無理はいいません。あくまで『知り合って、自分の思いを込めたものを作ってもらって、長く使ってほしい』っていうのが理想なので」 

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「『無理しない』はこの店のテーマですね」

 

子供でも買いに来れる値段にしたかった

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店内には革の色見本も。仕上がりをイメージしながら選ぶことができる

 

オーダーにしてはお手ごろなOND WORK SHOPの価格設定。間に卸問屋や小売店を挟まない「直取引」もその理由ですが、もうひとつ、価格に込める想いがあるそうです。

 

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain適正価格でやりたいんです。誰かのためにちゃんとものを作って渡す。すごい昔の人がやっていたことを、特別なことではなくて普通にやりたくて。大人も子供も関係なくて、いろんな人の手に届くような。」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「確かに、頑張ればお小遣いやバイト代で払える値段ですよね」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「前に、中学生の男の子が来たことがあって。『父の日にプレゼントしたい』って財布からクシャクシャの千円札を出してくるので『これ、絶対お小遣いを一生懸命貯めたんだろうな』と思ったら、すげえグッと来て、頑張っちゃいました。嬉しかったですね」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「地元の子供がオーダー頼みに来るってめちゃくちゃいい」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「女子高生も来てくれました。全然キャピキャピしてない雰囲気で、まわりはブランドものの財布を持ってるけど、私はちゃんとそうじゃないのがいいって」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「絶対いい子だ。特に思春期でファッションに目覚める時期って、ベルトとか財布選ぶの苦労するじゃないですか。まだ自分に自信がないし、知識も乏しい。そんなときに、相談しながら、しかも手の届く値段でオーダーできるお店って絶対欲しいですよ」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「若い子に『一生モノ』の価値が伝わるとすごくいいなって思うんですよね。10代から使えば、大人になった頃にはとってもいい風合いになってるはず。傷んだところはうちで無料で修理しますし。その時まで店が潰れてなければ」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「そこは頑張りましょ!!経営者!!」

 

 

長野でノーストレスに生きる

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バックルはすべて真鍮製。砂の型に真鍮を流し込んで作るため、砂のザラザラ感が表面に残り、味わいが出るのが魅力だそうだ

 

実は木村さん、店を始めるときの自己資本は0円だったそう。長野市には『創業支援資金』という融資制度があり、事業を始める際に、低金利かつ長い返済期間で資金の借り入れが可能なんです(※)。その制度を利用し、「失敗しても頑張って働いて返せるくらい」の約500万円を借り入れ、開業することができました。

※融資制度の詳細については、長野市のHPなどをご参照ください

 

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「いっぱいお金は入るけどそのぶん大変、っていう状況はやだなと思って。飲みにも行けて、好きなことをできるっていう背伸びしないそこそこのラインを考えました」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「個人で商売を立ち上げやすい環境があるんだ。個人事業主が多いと、横のつながりもできますよね」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「よく周りの友人と飲みに行って、飲み会のノリで『これやろう!』って決まることもあります。いい飲み屋も多くて、ここで店を始めてよかったって思います」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「顔見てたらわかりますね。異常に目がキラキラしてるし、肌ツヤもいいし」

 

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f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「しょっちゅう温泉入ってるからかな(笑)」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「いや、マジでストレスなさそうな感じがします」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「怒ること、ないですね〜お酒飲んでたら幸せだし」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「店燃やされたら?」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「それはさすがに怒ります。ストレスといえば商品の納期だけですね。納期に合わせて焦って作るのは辛くて……」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「僕の編集の仕事は、納期を設定する側なんですよね。ライターに何日までに原稿くれって。でも、たまに『〆切なくてもいんじゃない?』って思います。なにか、別の仕事の進め方がないかなって」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「納期ありきで進めなくてもいいんじゃない?ってことですよね。無理して納期に合わせるより、もう1ヶ月待ってもらって、いいものを納品したほうが、結局長く使ってもらえるんじゃないかって思うんですよ」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「そう!いいものを作るのにはある程度時間もかかるし、お互いのタイミングもあるし。そういうユルいやり方はなかなか難しいですけど……って、ダメな感じが伝染ってた。危な……これを見てジモコロのライターが全員締切無視したらえらいことなりますよ。見ててもするなよ!」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「うんうん。あくまで理想ですけど、言葉を選ばず言えば、楽しいことだけして生きていたいってことですね(笑)。可能だとは思うんです。楽しそうなほうが人は寄ってくるし、その方がちゃんとした『商い』になってくるし」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「相当ダメな発言にも聞こえますけど、つまり、人と人との関係性でものを売るってことですね。いいもの作ったら、別の人を連れて来てくれて、次に繋がっていって。それはたしかに理想です」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「うちはそれでもってるところがありますよ」

 

 ダメさを許容する社会

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意識はどちらかというと低めですが、それも木村さん流。彼の仕事の進め方には、土地の風土も関係があるような気がします。

木村さんの店がある権堂町は、かつて遊郭があった場所。いまも店の裏は歓楽街になっています。

 

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「遊郭周辺の土地って、ダメさを許容する文化がありませんか?美味い飲み屋があるから、そこにダメなおっさんが集まってくるけど、なんとなく許されて社会が成り立ってるような」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plainダメでも大丈夫な世の中になってほしいですね。めっちゃ働く人も必要でしょうけど、僕はそうはなれない(笑)。けど、ダメなりに自分のペースで、できることはしっかりやりますよ。僕ならベルト作りを」

 

1年半の充電期間があったからこそ、木村さんは今こうして働けているのかもしれません。

背伸びはせず、やれる範囲で、自分にとって価値を感じられる仕事をする。そして、それが「商い」になる。ある種の理想を、木村さんは長野で体現しているように思います。

 

 f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「そういえば、何の動物の革を使ってるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「牛さんです」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「牛さん」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「結局、生き物の命をいただいているので。革をとるために殺すのではなく、お肉を取る際の副産物として、牛さんの革を利用させていただいています。無駄を出さず、できるだけ長く使っていただくことで、牛さんごめん!全部大事に使うから!っていつも思ってます」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「そっか、このベルトも財布も牛がいたからできてるんだ…ありがとう牛さん!」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「人間のエゴで動物の命を無駄遣いしたくないんですよね。あと、店も、もっと山奥に移したいと思ってます。ちょっと街に疲れた人が、休みの日に来て、癒されて帰っていくって風になったらいいなと思って」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「あえてハードルを上げていくんですね」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「40歳過ぎくらいからできそうかなと思って。開業時の借金を返し終わるタイミングで。それで、もう一回借金したいんです、1千万円くらい。その時は妻も巻き込んで」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「あ、充電期間の彼女と結婚してたんですね。もう泣かせちゃだめですよ」

f:id:tmmt1989:20170301230053p:plain「妻は美容師なんですが、自分で美容室をやりたいと言っていて。妻の美容室と、僕の革の工房が一緒になってるお店を山でやりたいんです。革についての考えも、ものづくりのあり方も、世の中の価値観を少しでも変えられたらと思ってます」

f:id:tmmt1989:20170301230108p:plain「……めっちゃいい夢!ダメダメ言いまくってすいません。木村さんのこと、すっかり好きになっちゃいました」

 

 

おわりに

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柿色のベルトを手に入れて、もうベルト難民から解放されました。 胸を張って身につけられる「一生もの」とともに年を取っていくことに、とてもワクワクしています。

 

その人の生活に合わせてモノを作り、長く使ってもらう。壊れたら修理もする。木村さんの仕事は、まさに昔の職人がやっていたことそのものだと思います。職人文化の衰退が叫ばれる昨今ですが、彼のような現代の職人もまた、少しずつ現れ始めています。

 

「自分も作ってほしい」という方は、ぜひ、長野まで足を運んで、お店に遊びにいってみてください。

 

取材協力:OND WORK SHOP(http://ondworkshop.kim

写真:小林直博

 

企画・編集:徳谷 柿次郎

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株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com