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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「お客さん、ひょっとして今から仕事ですか?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「いやいや、仕事終わりに実家に顔を出してたんですよ。父の還暦の祝いでね。今から都内に帰るわけです」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「はあ、なるほど。ここいらでこんな時間にタクシー待ってる人間なんて、なかなかいないもんでね。幽霊かと思っちゃいましたよ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「ははは、タクシーの運転手やってたら、霊体験なんて慣れっこじゃないんですか?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「そうですね……私もまあ、いくつか怖い思いもしましたけどねぇ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「へぇ、僕そういう話が大好きなんですよ。何かひとつ話してくださいよ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「そうですか? じゃあ……」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「とはいえ、こっちも仕事ですからね。30分くらいかけて墓地に行ったんですよ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「『なんか怖いから』って理由では断れないですもんね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「ところが墓地について振り返ってみると……」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「まさか女はいなくなってて座席のシートがグッショリ、みたいな!?」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b72なんで水の量多くしちゃったんですか。グッショリどころかヒタヒタになってたじゃないですか」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「えー、だめでした? 溺れるかと思って怖かったですけどね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b72「あ~あ、ガッカリだな。せっかく怖い話が聞けると思ったのに」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「う~ん、じゃあこんな話はどうでしょう?」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「うわぁ……! お婆さんが近道をして先回りしたってことは?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「曲がりくねった道でしたけど、ショートカットできるようなところはありませんね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「じゃあ、同じ背格好の老婆がたまたま二人……」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「夜の山道に老婆が二人歩いてるって、その方が不自然じゃないですか。私は、これはヤバいぞと。一刻も早く逃げなきゃと思って車を走らせたんですがね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「まさか」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「そのまさかです。10分ほども走った頃でしたかね……」

 

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b72「運転手さん、怪談のセンスないんじゃないの?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「ちょっと待ってください。そうまで言われたら私にも意地ってものがありますよ。次の話を聞いてから、センスがあるかないか判断してください」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「ほう、こりゃ楽しみだ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「あれは去年の夏のことでしたかね。街でカップルのお客さんを乗せましてね……」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「N岬ってのはここいらの観光名所でね。断崖絶壁になってて夕日がきれいなとこなんですよ」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「そこなら知ってますよ。確かに良いところだけど、自殺の名所でもありますよね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「よくご存知で」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「なんだこの話」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「え、怖くなかったですか?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b72「この縮尺だと霊じゃなくてUMAだよね」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「UMAなら怖くないと? ドシャ降りの夜にヒバゴンが突然アパートを訪ねてきても怖くないと?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b72「それは怖いよ!」

 

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%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「しかしこういった怪談って、何がしたいんでしょう」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「ん? どういうことですか?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「いやね、女がいなくなってて後部座席が濡れてたとか、海から白い手が伸びてたとか、仮にそれらの話が本当だとしてですよ、その……霊? 霊は何がしたいんでしょうね?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1怖がらせたいんじゃないですか? 他に理由あります?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「怖がらせて何の得があるのか?っていう話です」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b1「ああ、そりゃあ……怖がらせた方がコントロールしやすいんじゃないですか」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「コン…………は?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b2「…………」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e7%94%b71「ん?」

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%b3%e3%83%b3%e9%81%8b2「…………」

 

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おわり