エントリーNo.3 リックェ(初代菓子盆王者)
お次は初代王者のリックェ。なぜか桃鉄の貧乏神の顔マネをしながら、A+Bボタン同時押しで闘気を身体中に溜めています。ポーズの意味はわかりませんが、作盆能力を高く評価されている彼の菓子盆はこちら!
●二人静(両口屋是清)
●おときき山(両口屋是清)
●京のお茶飴 抹茶・ほうじ茶(京はやしや)
●いちご ドライフルーツ(Family Mart collection)
●じっくり揚げたポテトチップス・ソルトレモン味(Family Mart collection)
「この盆は娘のアルバムなんです。色味がオフトーンなのは、ひとえに娘を嫁にとられる寂しさを表しています」
「さて、右手の『京のお茶飴』から御覧ください。珠のようなかわいらしい子が生まれた喜びを再現しています。そして、その子も大きな焼き菓子『おときき山』まで成長した。そこを婚約者がさらっていってしまうのですが…」
「ここからは未来のアルバムですね。生きていく中で『ソルトレモン』のような、しょっぱい酸っぱいできごともあるでしょうが、『ドライいちご』みたいになるまでふたりよりそって一緒にいて暮らしていって欲しいそういう願いを込めました」
「そして、盆は一周めぐってはじめに戻ります。家族ですね。盆の成す円は家族の縁でもあります。最後に、その円(縁)の中央に紅白半球一対の和三盆の落雁の『二人静』を添え、言祝ぎとしたいと思います。
この菓子に関して逸話があります。若菜摘みにでかけた神社の女人と、里の女に身を変えた静御前が、菜摘川(吉野川の別名)のほとりで出会う。女人が『春立つといふばかりにやみ吉野の、山も霞みて白雪の、消えし跡こそ道となれ』歌うと、影のように合わせて『しづやしづ、しづのをだまきくり返し』と優雅な舞をみせた。
『二人静』という菓子は、この息ぴったりの優雅な2人を模して作られたそうです。
また、完全なるものの象徴として、球があります。ここでベターハーフという言葉を紹介しましょう。古来、人間は手足を4本ずつ頭を2つ持つ球体のいきもので、今の我々より2倍早く走り、2倍の腕力を持ち、知性も2倍あったのですが、それを恐れた神に、半球の2つずつに割られてしまった、それが人間が、その身の片割れを……
「うるせえ」
「つまんねえ最年長の奴がする結婚式の挨拶かよ。…でも悔しいけど盆は見事」
「盆は良いんだから頼むから黙ってくれ」
父として、というより、年長者として娘を見てきた人間の盆です。置くには難度の高い干しフルーツも実に自然に配置されているうえ、味も抜群でした。
この並びでは少々異色なポテトチップスをひとかじりしてみると、ほのかなレモン味。味にまで色彩的な気配りを感じます。
中心に添えられているのは欠片が2つで1つになっている和三盆「二人静」。静謐な盆の上に感じる親の愛。出されたら緊張するというよりは、気が引き締まる菓子盆ですね。
やはり、盆は高評価!! これでうんちくがなくなれば最高なのですが…。誰かリックェの唇をコンピューターミシンでかがり縫いしてください。
エントリーNo.4 ARuFa
本人は真面目にやっているようですが、サイケでキモい盆を作ってしまうことでお馴染みのARuFa。父親というよりはどう見ても「永久に出世しないお弟子さん」という感じですが、結果を残せるか…?!
「大切な娘が連れてきた婚約者にこそ出したい菓子盆を作りました」
●一本満足バー(アサヒ)
●さやえんどう(カルビー)
●Poifull(meiji)
●フライビーンズ(カワシマヤ)
●ごまとくるみの香ばし饅頭(あわしま堂)
●いちごが濃い大粒ハートアポロ(meiji)
●うまい輪 たこ焼き味(リスカ)
●ピコラ(ナビスコ)
「このフライビーンズ、美味しいんですよ」
「『一本満足バー』は、2人で分けて食べてほしいです」
~ 会場の反応 ~
「キモすぎ。フライビーンズがこっちに襲いかかろうしている低級魔物にしか見えない」
「マジでふざけんなよ。挨拶に来た娘婿に『一本満足バー』を出す親父がどこにいるんだよ。なんかそういう下ネタか?」
「本当に怖い。新聞社のみなさん、こいつが犯人です」
バグったスーパーマリオワールドかと思ったら菓子盆でした。
左下にあるシューティングゲームの敵みたいなものは饅頭だそうです。これを彼女の父親が出してきたら恐怖以外のなにものでもありません。たぶん犬を「個」で数えている。
それにしても、散らかっている理由が「交際相手が来て混乱しているから」ではないと瞬時に分かるのが不思議です。あるいは、この盆上に湧く混沌の宴こそが、家族という共同体が生み出した歪みそのものなのかもしれません……。
ARuFaはもっと動植物との触れ合いとかが必要だと思います。
エントリーNo.5 室木おすし(初出場)
5人目は初出場のイラストレーター・室木おすし。今大会のメンバー中唯一、本当に娘がいる出場者なので期待が持てます。でも挨拶に行って、NYキャップでショルダータックルしてくるこんな父親が出てきたら嫌ですね。
「自分は実際に1歳の娘がいるので、その娘が27~8くらいに、はじめて彼氏を連れてきたという設定で真剣に考えました。悩んだ結果、スタンスとしては頭ごなしに反対する気はないが、ウェルカムムードで出迎える気もないというところがリアルなところじゃないかと」
●げんこつ(がんこ職人)
●江戸巻(がんこ職人)
●豆丹尺(がんこ職人)
●いかみりん(スリーエフ)
●亀田の柿の種わさび(亀田製菓)
●やわらかいかくんせい(なとり)
●ひとくちスモークチーズ(小岩井乳業)
●宝の麩・青かえで(加賀麩不室屋)
「というわけで甘味のないお菓子ばかりでセレクトしました。『娘が連れてきたから迎えよう。ただしウチは甘くないぞ』という意思表示です。無骨な歓迎という意味でもあります。
また、結婚相手の実家に初めておじゃました時に、『いきなり甘味を求めるような人間に私の娘はやりたくない』ということでもあるのです」
~ 会場の反応 ~
「頑固だなぁ~。食うのしんどそう」
「ん? もみじの最中があるじゃん」
「甘味がないって言ってるけど、最中は?」
甘味がないと言いつつ配置されている最中に非難が集まりました。しかし「そう思うなら食べてみてくれ」とのことなので、審査員が試食をすることに。
「いただきます」
「ッえっふっっ!!!!」
「え…? なにこれ…?」
「キミねえ、それはおすましだよ。お湯をかけてお吸い物にして飲むんだ。せっかくこの後2人で飲もうと思っていたのに…」
「今日はもう帰ってくれ」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「と、こういう風に使います。初手でおすましにいかなかった好青年には、いい頃合でネタをばらして笑いながら2人で汁を飲みます」
「そしておすましが置かれていた下には、おつまみゾーンを設けておいたので、それを食べながらビールで乾杯をしたいと思っております」
まさか「おすまし」を齧らされるとは……。
先ほど、婚約者を前にした父の思考は「仲良く」と「なめるな」の間を揺れ動くと申し上げましたが、こちらは「なめるな」一点集中の盆です。全体を硬くしょっぱいもので築き上げ、唯一の甘味っぽいものはフェイクという「要塞盆」。
さすがにやりすぎではないか、と思ったのですが、自身の頑固さを戯画化したユーモアとしての完成度はかなり高いのではないかと思いました。さだまさし「関白宣言」を思い出す、父性とは何かを考えさせられる盆です。
一見ただの悪ふざけかと思いきや、父親像とユーモアのバランスが認められ高評価! 今大会は波乱の予感がします。