菓子盆とは己を映す鏡である。
「お菓子チョイスのセンスでその人の全てがわかる」をモットーに「第一回」「第二回」と行われた菓子盆選手権。いずれも熾烈を極める闘いとなりました。
「自分の好きなお菓子を盆の上に盛る」たったこれだけの行為に今まで生きてきた人生が如実に表れてしまう。この鏡は一体どこまで人を裸にするのだろうか。菓子盆、浅いようでいてその底はまだまだ深い。
第二回大会からおよそ一ヶ月の期間を置きまして、今回は菓子盆選手権の第三回の模様をお届けしたいと思います。
参加者も円熟味を増してきた第三回ですので、今回は「使うお菓子を制限する」という挑戦をしようと思います。第一回は「フリースタイル」、第二回は「お題」、そして第三回は「縛り」というわけです。
そのテーマとは……
です。
誰しも1度は食べたことはあるでしょうし、美味しいことも知っているはずですが、無印良品”だけ”でと言われたら頭を捻らざるを得ない今回のテーマ。
なお、無印良品のホームページなどの事前カンニングは一切禁止。当日、店舗でのフィーリングのみでお菓子チョイスをしてもらいます。お菓子の選定眼のみならず高いアドリブ性が要求されることでしょう。
↓ベースとなる菓子盆選手権のルールはこちら!
というわけで、無印良品の有楽町店にやってきました。めちゃめちゃ広いので、無印良品で発売中のお菓子は大体揃ってるのではないでしょうか。
無印良品のPR記事でも何でもないので、店内撮影はできませんが、各々が思い思いの菓子を選ぶこと1時間。
爆買い中国人の団体にしか見えない菓子盆ファイター達が、武器となるお菓子を手に店から出てきました。
その後は近くの公園まで移動して、青空盆と洒落こむことにしましょう。
審査員を務めるのは、もちろんこの男。品田遊名義で作家としても活躍するダ・ヴィンチ・恐山です。背景と相まって死後世界の案内人のようですが、その評盆能力の高さは折り紙付き。現在日本で唯一の1級審判であり、国際菓子免許の取得も視野に入れているとの噂です。
それではさっそく、「無印良品限定の菓子盆選手権」スタートです! この過酷な縛り菓子盆を制するのは一体誰だ!
エントリーNo.1 セブ山(初出場)
一人目は初出場のセブ山です。「お菓子を選ぶセンスには自信がある」と言って憚らない詐欺師ライター。こいつのことを表示する画素を思うと可哀想ですが、本人の意気込みを聞いてみましょう。
「菓子盆選手権、第1回と第2回を静かに見守ってきましたが、並んでいる菓子盆どれも『演出』がなくてガッカリしていました。ただ資料を並べるだけのプレゼンがつまらないように、ただ菓子を並べるだけの菓子盆はつまらない! いかに相手の心を掴むかの『演出』がなくてはなりません!! そこで今回、僕がこの菓子盆に仕込んだ演出は『サプライズ』です!」
と、いきなり挑戦的なテーマを持ってきました。そんなセブ山の菓子盆がこちら!
●きなこもち入りミニどら焼き
●しるこサンドクラッカー
●ピーナッツチョコ
●海の幸ミックス
●しょうゆ揚げせん
●ショートブレッド
「無印良品の海の幸ミックスには、1枚だけ鉄板で挟み焼きにしたイカゲソが入っています。それを一番下に隠しておくことにより、海の幸ミックスを食べ進めた先に、『お、こんなのもあったんだ!』というサプライズを演出しました。えびせんのさっぱりした塩気に慣れたところに、ガツンと大人の塩辛さを! これでハートを鷲掴みにされない人なんていませんよね?」
「しょっぱさと甘さのバランスが非常によく取れた菓子盆ですが、ただひとつ欠けているのは、クラッカーのような軽い甘さでしょう。最初は、ピーナッツチョコやショートブレッドに目を奪われますが、食べ進めるうちにきっと『軽い甘さ』が欲しくなるはずです。そんな時に、ふとしょうゆ揚げせんに手を伸ばすと……なんと、その下からしるこサンドクラッカーが登場します! 刺激が強すぎるサプライズに、少年は『いけないものを見ちゃった!』としょうゆ揚げせんをそっと閉じるかもしれません。でも、それでいいじゃありませんか。サプライズなき菓子盆は、誰の心にも響かないのだから」
~ 会場の反応 ~
「サプライズで出てくる菓子の色味が悪い」
「ギリギリでスベってはいないけど、決して誰にもウケてはいない」
「最初ちょっといいかなと思ったけどサプライズで冷めた。適当に無印良品の菓子を放り込めばこんな感じになるんだろうな、と今は思ってる」
セブ山の提唱する「サプライズ」にやや否定的な意見が多かった印象ですが、菓子盆評論家ダ・ヴィンチ・恐山はこれをどう評価するのでしょうか?
初の「無印」縛りです。ブランドが統一されているため全体のバランスは整えやすいものの、個性を発揮するにはいつも以上に工夫が要ります。
初参加のセブ山さんは「えびせんべいをどけると下からイカせんべいが出てくる」というサプライズを用意してくれました。ですが正直に言って「えびせんべいの下にイカせんべいがあるなあ」と思っただけでした。もう少し意外性のあるものを隠すか、いっそ正統派でいくべきだったのかもしれません。惜しい。「ヤマ」をどこに作るかが無印盆のカギになりそうです。それにしてもこの画像、見てるだけで喉渇いてきますね。
サプライズが上手く機能せず今ひとつの評価に。工夫を凝らしすぎてもダメ、凝らさないのもダメ。無印菓子盆、これはなかなかの難戦になりそうです。
エントリーNo.2 リックェ(初代菓子盆王)
2人目の出場者は、インターネットふかし芋ことリックェ。初代菓子盆王でもある彼は芸術性の高い菓子盆が評価されています。今大会も優勝候補と謳われていますが果たして…?
「今回の菓子盆はバイカラー(2色使い)です。無印良品のお菓子は食品自体の色を生かしたものが多く、全体として落ち着いた色味の統一感があって設盆はやりやすいのです。ですが、今回は無印縛りの選手権。そのまま勝負しては他の盆師達と差がつきませんし、地味に走り過ぎる傾向もあります。そこで無印の統一感は残しつつ対比的な配置することで躍動を表現しました」
●いちごのブールドネージュ
●ブールドネージュ
●ココアとバニラのクッキー
●玉ねぎスナック
●ねりころ梅
●桜のクッキー
●抹茶とあずきのクッキー
●黒ごま芋菓子
●おこげせんべい
●てんさい糖のくまビスケット
●てづくりしょうが芋菓子
「いもけんぴはゴマと生姜の2種の味、クッキーやビスケットもココアとバニラ、他にもいくつかのお菓子は背反するコントラストとハーモニーを気まぐれに込めました」
「そして、目玉はブールドネージュ。プレーンと苺の紅白の組み合わせは、さながら冬の終わりと春の目覚めを告げる女神ペルセポネ。桜の花もほころび始め、力強い新緑の芽吹きに添えて新春のことほぎとさせていただければ」
~ 会場の反応 ~
「女神の話はマジでうっとうしいけど、菓子盆はお見事」
「”絶対盆感”ここに健在!!」
「美しい…」
菓子数が10を超える、かなり盛り沢山の盆です。全体の統率がとれず印象がバラけてしまうリスクを、「無印」の引力を利用して回避した手腕はさすが。まさに咲き乱れる山桜のごとく菓子が盆上に花開いています。第一回大会において永田さんが使用した紙ナプキンをさりげなく彩りにしているのにも注目。彼は戦いの中で着実に成長しているのです。ところが、菓子盆のゴールはあくまで「食」。味や食感のまとまりにまで視野を広げると、案外アンバランスな盆が姿を見せました。どの味に集中すべきか迷ってしまうような一面があります。おしゃれは我慢と言いますが、それはあくまで「おしゃれ」での話なのです。
なかなかの高評価ですが、あくまで「食」としての菓子盆というスタンスを崩さずに問題点を指摘する評論家。どこまでも冷静なジャッジです。
ちなみに、菓子盆作り中のリックェの後ろ姿は「次の1手を考えている露出狂」にしか見えませんでした。