はなしかくうどん

 

― 2013年1月 都内某所

 

ここに一日数食しかうどんを提供しないうどん店がある。知る人ぞ知るその幻のうどんは一体どんなものなのか?

 

花川 郭志

「はなしかくうどんの、花川です。よろしくお願いします。」

 

迎えてくれたのは花川 郭志(はながわ ひろし)さん。はなしかくうどんの二代目店主である。

 

店名は某有名うどんチェーン店を真似ているように思えるが、姉妹店なのだろうか。

 

「いいえ、全く関係ありません。たしかに某チェーン店の名前に似ていますが、実はうちのほうが先なんです。先代が20年前に始めた店なんですけど、10年前に突然仕事中に倒れましてそのまま帰らぬ人となりました。なので長男の私があとを継いでいます。味も製法も先代の頃と全く変わっていませんよ。」

 

それではこの「はなしかくうどん」はどんなうどんを提供するのか。

 

「チェーン店は回転率重視でうどん一杯出来上がるのもあっというまですが、うちは完全に真逆です。うどん一杯一杯に魂をこめて作っています。そのため注文から提供まで30分はかかりますね。」

 

なんとうどん一杯作るのに30分、しかも1日数杯しか作れないというのは一体どういうことなのか。筆者が混乱していると、「まぁ食べてくださいよ」と花川さんはあらかじめ作っておいてくれたうどんを出してくれた。

 

 

これが幻のはなしかくうどん。さっそく頂いてみる。

 

透き通ったつゆに具はネギだけ。いたってシンプルで一見変わった様子はない。まず一口。

 

う、うまいっ!!うますぎる!!!やさしく口の中に広がる鰹だしの香りとネギの風味、そしてなによりも素晴らしいのはうどんの麺である。伸びているのでは?と思ってしまうほど柔らかい麺だが、噛んでみるとそれが錯覚だとわかる。驚くほどしっかりとした歯ごたえ、そして飲み込んだ瞬間ののどごしは人生30年間振り返っても経験がない。大げさかもしれないが、吸う力を全く必要としないくらい簡単にうどんが口の中に入ってくるのだ。

 

あまりの感動に写真を撮るのを忘れて、あっという間に平らげてしまった。しかし調理に30分以上かかる理由は分からなかった。もしかして注文の度にうどんを打っているのだろうか。

 

 

「作るところ見ますか?」

 

なんと今回オモコロ読者のために、幻のはなしかくうどんの調理工程を大公開してくれるという!花川さんありがとう!

 

 

まずはうどんを茹でる。まったく手打ちではなかった。向かいのスーパーに売っていたそう。

 

 

 

茹で終えたら冷水で一気にしめる。かけうどんなのに一旦冷ますのには理由があるのだろう。お客様に調度良い温度で食べてもらうためですか?と聞いたところ、「違います。これは自分のためです」と答えてくれた。自分のためとは・・・?

 

 

以降は映像で御覧ください。

 

 

 

全身全霊を一杯のうどんに打ち込むその姿は、まさに日本の職人そのものであった。最後に一言お願いします。

 

「先代はうどんを盛っている際中に死にました。私も死ぬまでうどんを鼻から吸い、口から出し続けます。それが鼻口(はなしかく)うどんを作る者に与えられた使命なんです。今後もはなしかくうどんをよろしくお願いします。」

 

 

花川さん、ありがとうございました。