そんなわけで、チキンマンが台湾に上陸しました。
しかし、なかなか、みんな、足を止めてくれません。
「なんだ、あれ?」という視線は届くのですが、そのまま素通りしてしまいます。
ようやくチラホラと足を止めてくれる人も現れますが、少し距離をとって見ています。
おいら、悪いチキンマンじゃないよ! もっと近くに来てよ!
そんな叫びも虚しく、ひとり、またひとり、と去っていきます。
そして、ついに……
誰もいなくなってしまいました。
台湾の路上でポツーンと、チキンマンひとり。
こんな悲しいことがあっていいのでしょうか。
おまけに目の前で、ドブ掃除もはじまってしまいました。
もう、ダメだ……
やはり、台湾ではもっと高度なストリートパフォーマンスでないとウケないのでしょうか?
そもそも、セーター1枚で世界一周など無謀な挑戦だったのでしょうか…?
そんな自問自答を繰り返していると、一組のカップルが近寄ってきてくれました。
少し距離はありますが、僕の方を見ながら何かゴニョゴニョと話し合っています。
すると、突然、カメラでバシャバシャと僕を撮りだしました。
にっこりと満面の笑顔で返します。
全然、人が集まらず、心が折れそうになっていたので、僕には救世主に見えたのです。
すると、彼女が何やらスマホの画面を僕に見せてきました。
「これは、あなた、ですか?」とカタコトの日本語で。
日本語がしゃべれることに驚きましたが、それ以上に、スマホの画面を見て驚きました。
なぜなら、そこには、たしかに僕が映っていたからです。
どうやら「【暖房いらず】たった一枚のセーターで極寒の冬を乗り切る方法」が、台湾でも翻訳・転載されていたみたいです。
記事には約2万いいね!がつけられていたので、台湾でもそれなりに拡散されていたようです。嬉しい!
そして、彼女もその記事を見てくれた一人で、すごくチキンマンのことを気に入ってくれたんだとか。
「わたし、あなた好き、わたしマネしました」と言って、今度は一枚の画像を見せてくれました。
めちゃくちゃ可愛い!!!
全然、マネになっていませんが、着ているコートを頭までかぶって、友達とチキンマンごっこをして遊んでくれたそうです。
その時の写真に、勉強中の日本語で「大好き」とわざわざ書いて僕に見せてくれました!最高かよ!
そして彼女は「わたし、あなた、応援してます」と言って、投げ銭を入れてくれました。
バケモノと少女が心を通わせた瞬間です。
めちゃくちゃ美しいシーンじゃないですか?
そんな彼女のおかげで、周りにいた人たちも「安全確認」できたようで、だんだんと近づいてきてくれました。
じょじょに投げ銭も集まりだしてきています。
前回のロンドンで「投げ銭をもらったら、なにか特別なアクションでお礼を伝える」という大道芸テクニックを学んだので……
今回は、足で拍手するようにパチパチ叩いて「谢谢(シェイシェイ)」と現地語でお礼の気持ちを叫びます。
たった、それだけのことですが、まんまとウケました。
世界中どこに行っても、その国の言葉でお調子者なことをすれば、それなりにウケるような気がします。
そんなバカなと思うかもしれませんが、外国から来た野球選手が「カトちゃん、ぺっ」と日本語のギャグをするだけで大ウケしている事実が、この理論の正しさを物語っています。
世界の壁はぶ厚く見えて、実は案外、脆いのかもしれませんね。