日本某所 鹿と大仏で有名な某県の深く閉ざされた山奥に、幻の秘寺「婚活寺」はその威容を誇っていた。
この寺には全国から婚活のため、大地を揺るがす程の女子力を求めて多くの女性が集まるという。
それはこの寺が日本で、いや世界で唯一、婚活を旨とした特殊な修行を行なっているからである。
我々取材陣は今まで全てが謎に包まれていた婚活寺の修行を取材することに成功した。
これはその記録である。
婚活寺の朝は早い。
「健全な肉体に健全な結婚は宿る」
それがモットーである婚活寺。
ここで修行する女性達の朝は体操から始まる。
「魂!」「喝!」の掛け声とともに威勢よく突きを放つ。
婚活に肉体の鍛錬は欠かせないということなのであろうか。
「その通りよ」
我々取材班の前にエロいババァが姿を現した。
しかしこのエロいババァはただのエロいババァではない。
婚活寺の師範代「絶凛(ぜつりん)」さんである。
絶凛さんはかつて希代のアバズレであり、ズレ過ぎてもはやアバが取れているとさえ言われている。
結婚歴も凄まじく、なんとバツ50。
まさに結婚の申し子。婚活の権化なのである。
婚活寺師範代にふさわしい人材といえよう。
肉体と精神は深く繋がっているの。強大な女子力を得るためには、まずは器となる肉体を鍛えなければならないのよ。
「さよう…」
その奥に控えていたのはなんと大仏ではなく巨大な老婆であった。
彼女こそ婚活寺の師範であり最高責任者である「観瑠九(みるく)」大老である。
年齢不詳。
経歴の多くが謎に包まれているが、人類以外のあらゆるものと結婚したことがあると言われている。
なぜ人類以外か?人類相手では彼女の天文学的な女子力に耐え切れず粉々に砕け散ってしまうからだ。
その女子力は神の領域と言っても過言ではない。
ちなみに元彼はシロナガスクジラだという。
婚活寺では肉体と精神を鍛え、人が本来持つ女子力(チャクラ)を全て引き出すことを目的とした修行をしているわ。
さよう。
これからどんな修行が飛び出すのか、興奮を禁じ得ない取材班。
まずは気になっていた、修行者達の服装について聞いてみた。
いいところに目をつけたわね。婚活寺では道着にも女性らしさを取り入れているの。まず色がピンク、その他にも様々な工夫がされているわ。
道着がオシャレ
驚いたことに、手にはめられていたのはシュシュであった。
入山時に剃髪して丸坊主になる彼女達だが、乙女心を忘れないためにであろうか。粋なはからいである。
更に道着の袖はパフスリーブになっておりチャーミングな印象を与えている。
極めつけはおでこ。
おでこについているあの謎の点々が、スワロフスキーになっている。
かわいらしさやラグジュアリーさを感じさせる素敵な演出である。
まさか、でこだけにデコっているのであろうか…
でこだけにデコっているわ。
さよう。
………
やはり幻の秘寺、一筋縄ではいかないようである。
気を取り直して取材を続行する。
ここからは婚活寺で行われている数々の修行を紹介していくこととする。
どれもこれも並の女性なら軽く命を落としかねない危険な修行である。
お料理は食材の調達から
驚いたことに婚活寺では、食材の調達からが「料理」であるという。
食の安全が重要視されている昨今、最も確実な方法は自ら食材となる獲物を仕留めることよ。料理は女子力の要。食材選びから他の女子と差をつけることで、より強い女子力を得られるの。
さよう。
熟練者ともなると素手で猪等を仕留めることが出来るという。
ちなみに、まだ女子力が未熟な新人には槍が支給される。
美しさと機能を兼ね備えたネイル作り
さすがは婚活寺、最新の流行も取り入れている。
ネイルである。
しかし婚活寺のネイルは一味違う。
まず砂鉄に貫手で突きを1000本。強靭な手首や指の力を手に入れる。
そこから爪を刀のごとく研ぎ、磨く。
そうすることにより竹藁をも一瞬で切り裂く最高のネイルが手に入るのである。
かつてはこの上に毒を塗るという技もあったの。
さよう。
なるほど、綺麗な薔薇には棘ある、というわけである。
惜しみないスキンケア
よく見る滝行かと思いきや、そうにあらず。
なんとこれはハチミツやオリーブオイル、ホホバオイルや様々な薬草等を調合した
婚活寺特製の乳液の滝なのである。
あとは処女の生き血があれば完璧なのだけれど、贅沢は言えないわね。
さよう。
冗談か本気かよく分からないところが心底恐ろしいが、婚活寺が美容にかける思いは並大抵ではないことがお分かり頂けたかと思う。
デート上手を目指す
結婚とは一人でするものではない。相手がいて初めてのものである。
婚活寺にはその部分もカバー出来る修行法が存在していた。
当寺に古くより伝わる木人を使用して、リアルなデートを体感する修行よ。彼氏役以外の木人は容赦なく命を奪いにくるわ。殺られる前に殺る。そう、こんな時代だから「守ってもらうだけの女」ではいけないの。女子力の試され時というワケね。
さよう。
男性に頼り、寄りかかるだけではいけない。
婚活寺の教えは厳しくもあり、しかし時代性を取り入れたものであるようだ。
高すぎる理想を捨て去る
見るからに厳しい環境である。
そこにぶら下げられているのは、各修行者の「こいつはないわー…」という男性の写真であるという。
これは過酷な状況に追い込まれることによって「もうコイツでもいいわ」と心底思わせる荒行なのである。
身の丈にあわない理想にこだわり過ぎると、せっかくのチャンスを逃してしまうこともあるわ。高過ぎる理想は身(婚期)を滅ぼすわ。
先ほどの修行とは相反するけど、これもまた大事なことなのよ。
もう男ならカブトムシでもいいや、と思えれば結婚はすぐそこね。
さよう。
カブトムシは言い過ぎなのだろうが、高すぎる理想に縛られ、歩みを止めてしまうことはよくあるだろう。
そしてそれは婚活に限った話ではないのである。
手作りのものでハートをゲット
なんだかんだと、古来より男は手作りの物に弱い。
そこに気持ちを込めやすい、という点でも手作りの物には普通のプレゼントに対しアドバンテージがあるのである。
ここまで来れば修行はほぼ完了したも同然。身の丈ほどの自然石を己の拳足のみで叩き、砕き、削り、ハートの形にする修行よ。思いを込めてハートを削り出せば、大抵の男はいうことを聞いてくれるわ。
さよう。
本当の意味で手作りのハート(岩石)、一度貰ってみたいものである。
どこかで見たことのある気がする修行ではあるが、大目に見て欲しいのである。
ところで、ここまで多くの修行を見てきた我々取材班であったが、そもそも女子力とは何であるかがよく分からなくなってきた。
女子力とは結局なんなのだろうか…?
女子力とは…すなわち「気」を上手く使えることじゃよ。
(ちゃんと喋れるんだ…)
気が回る、気がきく、気遣いが出来る、気配りが上手い…
他人だけでなく、自分自身のことに関してもじゃ。
綺麗な服装や爪の先まで気が行き届いておるのも一つの気の使い方じゃな。
それが女子力というものじゃよ。女子力とは気使い力なのじゃ…
なるほど、さすがは観瑠九大老。真理をついた金言である。
圧倒的な女子力
これが修行を終えて「気」を使うことをマスターした状態よ。
過酷な修行を乗り越えたからこそ、これほどの「気」を使うことが出来るようになったというワケ。
さよう。
……
えっ。 そっち?
「気」って、えっ?
そっちの?オーラ的な方の?
ここまでくれば完璧。婚活は成就したも同然ね。
この女子力をもってすればどんな相手でもバッチリ、モノにすることが出来るわ。
断れば「死」あるのみだからね。
さよう。
……… では最後に、まさに今この婚活寺を退山しようとする女性に話を聞いてみようと思う。
心身ともに圧倒的な強さを身につけた女性が、今求める男性像とはいかなものなのだろうか?
理想のパートナー像をうかがってみた。
………
………
………
(凸ノ)