とある地方の山奥に、謎の施設があるという。

 

私は今、その中にいる。

東京駅から電車を乗り継ぎ6時間。取材にやってきた。

しかし、

「案内役が来るからここで待ってくれ」と言われてもうすぐ20分。

忘れられているんじゃないか不安になってきた。

 

 

え?

 

 

驚いた。

まさかAIが案内してくれるとは…

しかし、見た目がだいぶショッキングだな。

 

え?ちょっと待っ…

 

すり抜けて行っちゃった…

 

 

数十年前、

国が多額の予算を投じ、ひとつの施設を建設した。

某県の山奥に建てられたその奇妙な施設は、

なんの目的でつくられたのか、その中で何が行われているのか、一切明かされていない。

メディアで報じられることもほとんどなかったという。

この話を人づてに聞き興味を持った私は、フリーの記者として長年調査を続けてきた。

しかし、これといった情報をつかむことはできなかった。

 

ところが先月

なんと施設の関係者を名乗る人物から、施設の取材をしてほしいというメールが届いたのだ。

 

なぜ私に?なんの目的で?

わからない。

しかし、願ってもないことだ。

当然、すぐに承諾した。

それから、場所と日時を記した簡単なメールが届き、私は今日、この場所に来た。

 

頑丈そうな扉だ。

AIのヤマガイさんは「ドウゾ」と言ってたけど、開けていいだろうか…。

 

いや、ためらってはいられない。

 

力を込めて扉を押す。

 

あいた…

ついに施設の正体が明らかになる。

興奮と緊張で胸が高鳴る。

 

部屋は冷たく、ゴムの焦げるような臭いが鼻をつく。

ヤマガイさんが見当たらない。どこだ?

 

檻だ。中になにかいるのか?

 

近づいてみよう。

暗くてよく見えない。

 

これは…

 

 

 

え!?

 

 

うわああああ!

 

 

何!?

 

あ、ヤマガイさん…

 

 

ここが刑務所…?

そんなわけない。刑務所には何度か取材に行ったことがある。

凶悪犯やヤクザの親分はいても、さすがにこんな化け物はいなかった。

 

あ…案内役のくせに一人でどんどん行くな…

しかたない。

とりあえずついていくしかない。

 

聞きたいことは山ほどある。

AIがどこまで知っているかわからないが、この施設に関する情報を一つ残らず聞き出してやる。

 

え?

 

あ!ちょっと…

 

消えちゃうのかよ

 

「ゴ自由二」って言われても…

 

虫か?

 

いや、違う。

他の何かだ。

 

ん?奥にいるやつ…

 

あれは…

 

手だ…。人間の手…。

なんなんだ…

 

どうなってるんだよ。ここは

 

おーい!ヤマガイさん!もっと説明してくれよ!

 

どこに行っちゃったんだ。

 

これは…

 

格子窓…

 

何かいる。

 

うわ…!

 

気持ち悪いな…

 

見てはいけないものをたくさん見てしまった気がする。

正直、こんなところにいたくない。今すぐ逃げ出したい。

 

しかし、それでは意味がない。

まだこの施設について何もわかっていないのだ。

 

何か一つでも情報を…

情報をつかまなければ。

 

行けるところまで行こう。

 

階段だ。

暗いな…

 

しばらく降りると扉が見えてきた。

地下室か?

 

取っ手がない。押しても引いてもびくともしない。

これで行き止まりか。

そう思った瞬間…

 

甲高い機械音が鳴り響き、扉が自動的にあいた。

 

これは何の部屋なんだ。

椅子…?

 

 

え?

 

 

 

昭和61年、金石大学の山崖道夫教授が人工生命体を作り出すことに成功した。

 

人間の遺伝子と化学物質を融合したその生命体は「D-po(ディー・ポ)」と名付けられた。

D-poが特殊だったのは、コンピュータを通して人間の脳波データを送り込むことができることだった。

さらに送られたデータによって体の形を変えていくという性質を持っていた。

 

たとえば、温和な人の脳波データが送られた個体は、柔らかく丸みを帯びた形①になり、

怒りっぽい人の脳波データが送られた個体は、固く角ばった形②に変化していった。

 

この技術はやがて犯罪心理学の研究に応用されることとなった。

 

昭和63年、政府主導により一つの施設が建設された。

それはいわば、実験場だった。

 

施設には複数のD-poが収容された。

すでに刑が確定した重犯罪者が施設の地下室に連れ込まれ、彼らの脳波データはD-poに送られた。

何人もの犯罪者の脳波データが蓄積するにしたがって、D-poはかつてない歪な変形をはじめた。

 

実験は大きな成果をあげた。

開発者の山崖教授は名誉と財産を手にする一方で、心を病んでいった。

 

 

山崖教授は自身の遺伝子をもとに作った、彼の分身ともいうべきAIロボットを残し失踪した。

 

信じがたい話かもしれないが、筆者がこの記事を執筆しているのはそのAIロボットからの依頼によるものだ。

彼は三十年あまり、施設を管理しD-poの世話をしてきた。

しかし、

 

 

 

 

 

2020年7月31日