あの子の声を聞いただけで胸がドキドキ。
週末、あの子と会う約束ができただけで顔がニヤニヤ。
仕事してても「今、あの子なにしてるのかな?」ってソワソワ。
そんな人。ううん、そんな武将、あなたにはいますか? 僕にはいます。
そう。僕は今、武将に恋をしてるんです。
今日もこれから、武将に会いに行くんだよ。
約束の時間にはちょっと遅れちゃったけど、優しくて人望のあるあの武将のことだから、きっと怒ってはいないはず。
あっ!いたいた!待ってる待ってる!
おーーーーーーーい!
おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!
関羽ーーーっ!!!
「もーう。おっそーい」
「ごめんごめん。結構待った?」
「うーん、ちょっとね。赤兎馬で来たから、早く着きすぎちゃったとこもあったし」
「あ、赤兎で来たんだ。駐禁大丈夫?」
「ちゃんとタイムズに止めてあるから大丈夫」
「そっかそっか。でも赤兎できたってことは、今日はお酒飲めないね」
「なにー? 酔わせる気だったのー? 今日はちゃんと終電前には帰りなさいよね。こないだみたいに荊州まで押しかけてきたらダメだぞっ!」
「わかってるわかってる」
「何読んでたの?」
「ん? ちょっと兵法」
「こないだも読んでたよねー。兵法好きだねえ」
「一応これでも武将ですからー」
「孫子? 呉子?」
「え? い、いいじゃん何でもっ!」
「隠さなくたっていいでしょうよ。ほら!見せて!」
「あっ!ダメダメ!読んだらダメ!」
「えー? なになに…『好きな相手の心をつかむには普段見せない武将の弱い部分を見せる…』」
「……………」
「へぇー、孫子の兵法書って恋愛編もあるんだね。あれ?でも俺と会う前にこれ読んでたってことは…。ひょっとして、俺のこと好きだったりとか!?」
「……………」
「………あ、ご、ごめんごめん!冗談だって!冗談!」
「………バカ」
「え、えーと、てか、あ、そうだ。今日の青龍円月刀、可愛いじゃん! こないだのより俺好きかも」
「ほんと? 結構サロンで気合い入れてやってもらったから、そう言ってもらえると嬉しいなー」
「うんうん。春らしいし、めっちゃ似合ってるよ。武将誌に出てくるモデルかと思ったもん」
「え~? ちょっと誉めすぎじゃない?(笑)」
「いっつも綺麗だけど、今日のヒゲも特に綺麗だね。シャンプー変えたりしたの?」
「ううん、ラックススーパーリッチのままだよ」
「いや~、これぞまさに美髯公!ってオーラに溢れてるよ。今年の『ビゼコレ』出れるんじゃない? 優勝狙えちゃうんじゃない?」
「も~(笑) なんかそこまで言われると真実味ないって! どうせ他の武将にもおんなじようなこと言ってるんでしょ!」
「言ってないって! 俺がこんなこと言うの関羽だけだよ」
「怪しい怪しい(笑) これは伏兵ありと見たぞ~」
「計略なんかじゃありませんって!」
「どうだかね~ わたし張飛と違って知力も高いから、そういうの見抜いちゃうかもだぞ!」
「ちょっとちょっと!なんで今張飛ちゃんのことが出てくるのさ!」
「だってこないだ張飛とも食事行ってたじゃーん。私みたいないかめしいタイプより、ああいう軽いノリの子の方がいいのかな?ってちょっと思ったよ」
「いやぁ、あれは単に仕事の悩みを聞いただけだよ。張飛ちゃん、ついつい部下に辛く当たっちゃうってちょっと落ち込んでたからさ。まぁ、最後の方は酔っ払いすぎて何にも覚えてなさそうだったけど…」
「ふーん へーえ 何も覚えてない……ねえ」
「ちがうちがう!関羽の義兄弟相手にそういう間違いはないって! 俺、張飛ちゃんは自分の弟になったらいいなって思ってるんだ」
「え?それってつまり…」
「関羽…」
「ちょっ、ちょっと! いきなり近いって! 人が見てるよぉ…」
「今日から関羽のこと、雲長って呼んでいい?」
「え…」
「俺、雲長と家族になりたいねん。五虎将よりも、劉備さんと張飛ちゃんよりも、もっともっと深い関係になりたいねん」
「………!(やだ、急に粗野な関西弁!男らしさ感じちゃう…!)」
「ええか? 雲長と俺だけの、特別な桃園の契りしてええか? 生まれた日は違えども、死す時は同じでええか?」
「…………」
「雲長、ええか?」
「…………ええで」
んっ
雲長の唇は、桜の味がした。
僕達の恋は、まだ始まったばかりだ。