そんな話を聞きました。

よし、やってみよう。

 

 

 

 

 

「せっかく記事で焼きおにぎりを焼くのに、家で会社でというのも味気ない」

そう思ったので、川崎市多摩川緑地バーベキュー広場に行くことにした。

 

「智恵子は東京に空が無いという」

そんな有名な詩があるが、空よりも東京に無いのは、大手を振ってバーベキューができる場所だ。

田園都市線の二子新地駅からほど近いこの緑地も、東京っぽく見せかけて、実は神奈川県の敷地である。

 

 

ド平日の朝、歩いて多摩川のほとりへと向かう。

こういう時、「何となく手ぶらで行くのも寂しい」という気持ちから、つい売店でラテを買ってしまう。

 

 

どうせ歩くのであれば、こういう甘い汁を吸いながら歩く時間にしたい。

少しのスキマにも娯楽を詰め込みたい。

そんな落ち着かない気持ちが、ラテに出る。

 

人はいつから、手の中のラテを写真に収めるようになったのだろうか?

未来人がこの時代の写真を発掘したら、「こいつらラテ飲んで写真撮りすぎ!」と驚くだろう。

マウントレーニアがどんな山かもよく知らないまま、僕らは人生の時間をラテに費やしていく。

(この期間限定のやつ、美味しかったです)

 

 

 

ラテをちょうど飲み干したころ、まったく人気を感じないバーベキュー場へと到着した。

やはりこの時間(朝10時)から、炭火で肉を焼こうという気持ちになる人は稀らしい。

 

 

一人でバーベキューに挑むのも骨が折れるので、今日は人を呼んでいる。

この二人のオモコロライターに、今回の記事は手伝ってもらった。

マンスーンの記事

ヤスミノの記事

 

 

バーベキュー場への入場料は500円で、器具も現地でレンタルできる。

参加する人数にもよるが、ここにくれば誰もが1000円ぐらいの金銭と引き換えに、通勤電車とオフィスビルを尻目にバーベキューできる権利を買えるのだ。

 

ここは牢獄なのか、それとも楽園なのか。

現代のバビロンは不思議に歪んでいる。

 

 

この記事を書いている者、原宿です。

この写真では、バーベキューなのに白い服を着てきてしまったことに激しい後悔を覚えている。

今日はウタマロ石けんのお世話になるに違いない。

 

 

「まァ、いきなり焼きおにぎりというのもなんですから…」

誰に聞かせるでもない言い訳をしながら、僕らはまず買ってきた肉を焼き始めた。

 

しかし、より短時間で情報を得たい読者の立場を考えれば、いきなり焼きおにぎりを焼く記事の方が良いだろう。

情報媒体としての価値が高く、Googleに評価されるのはそういう記事やサイトだ。

 

そう考えると、ここで肉を焼いたことをわざわざ記事で報告する必要はない。

 

 

だが、オモコロのようなこの世の無駄を煮詰めたサイトでは、情報として必要のない肉が焼けるさまをこそ見て欲しい。

この瞬間、ネットを介して繋がっている人たちが、何の意味もなく焼ける肉の写真を見ている。

この肉に情報としての価値はない。肉はただ、焼けているだけだ。

 

 

これが許される文明の寛容さに感謝しつつ、肉をいただく。(別に許されてはいない)

 

 

どんな時でも、焼いた肉はうまい。

これが100万年ものあいだ、誰かが肉を焼くたびに人間が到達している真理だ。

 

 

ちなみにこちらのヤスミノは、この夏に新潟から上京してきたばかりだ。現在26歳。

この機会なので、なぜ彼が上京したのかインタビューしてみることにした。

 

 

―前は新潟で会社員をやっていたんだっけ?

 

「はい。土建の会社でパソコン事務的なことをしてました」

 

―辞めた理由としては、何かあったの?

 

「色々あるんですが、同僚にかなり年上のおばちゃんがいて。その人との折り合いがよくなかったのが一番ストレスでしたかね」

 

―仲良くできなかった?

 

「会社の中では年齢的に僕がいちばん若くてパソコンに詳しかったんですが、おばちゃんに『ここはこうした方がいいですよ』と教えると、プライドが傷つくのかいちいち反発してくるのがキツくて…」

 

―確かにキツいね、そういう感じ。

 

「ストレスが無いようにとおばちゃんの回ってくる仕事も僕が引き受けていたんですが、その間、おばちゃんが仕事をサボって羽生結弦くんのサイトを見ていたのもムカつきました」

 

―羽生くんに罪は無いけどね。

 

 

 

 

―東京に引っ越してみて、感じたことはある?

 

「来る前は東京っぽいところにどんどん行きたいと思っていたんですけど」

 

―東京タワーとか?

 

「いや、東京って地方には無いエッジの効いたイベントが多いじゃないですか。ロフトプラスワンとか、オールナイトの映画上映会とか。なんか良さそうな演劇とか」

 

―ああ、そういう方の。

 

「でも実際住んでみると、あんまり行かないですね。自分が面倒くさがって行かないだけなんですけど。あと古着屋とかもたくさん行こうと思ってたんですよね、TOXGOとか」

 

―古着、好きなんだ。

 

「いざ店の前に行ってみると、オシャレ偏差値の高さに圧倒されてしまって……。お店も半地下にあるんで、『逃げ場がない!』って感じが怖くて、結局入れませんでした」

 

―オシャレな服屋に入って行きづらいのは何となく分かる。

 

「単純に今仕事探し中で、そんなに服買う金もないっていうのもあるんですけどね」

 

 

 

―最近、家では何してるの?

 

「チョコを食べてます」

 

―チョコを。

 

「甘いものが好きなんで」

 

―何のチョコ食べてるの?

 

「特に種類とかこだわりないんですよね。安いプライベートブランドの、なんか台形のやつとか食べてます」

 

―台形? アルフォートとかは食べないの?

 

「アルフォートは美味しいんですけど、お菓子として完成度が高すぎて、量を食べるのにむいてないと思うんですよね。僕は量をこなしたい派なので」

 

―なるほど、チョコは質より量だと。

 

「なので、ホイップクリームを買ってきて、一人で泡立ててそれだけ食べてる時もあります。なんかモノ凄い気持ちになりますけど……」

 

―上京して一人でホイップクリームを泡立てて食う。なんかいいね。

 

「いいんですかね?」

 

 

コンビニおにぎりを焼く

そろそろ本題に入ろう。

なんと言っても今日は、コンビニで買ったおにぎりを焼きおにぎりにする日なのだから。

 

 

ここまで来るのに準備と時間をかけてみたものの、焼きおにぎりが焼けるのは一瞬のことだ。

本当は多摩川のバーベキュー場に来る必要もない。

 

しかし効率と合理に支配されてはいけない。

人間は昆虫ではないのだ。

昆虫ではないから、こうして唐突に河原でおにぎりを焼くことができる。ありがたい。

 

 

 

もぐり。

 

 

 

 

 

 

なるほど、こいつはパリッパリだ。

 

 

コンビニのお米は「炊飯油」というのを混ぜて炊くのでツヤッツヤだが、焼きおにぎりにするとその油のおかげか焼かれ加減が実に良い。

外側がパリッパリに香ばしく、焼き網にもお米がつかない、良いことだらけだ(体には良いのか?という議論は一旦置こう)。

 

コンビニのおにぎりを焼くことに、何となく「邪道」という感覚があったのだが、これだけ美味ければ邪なことも正としたい。

 

 

「じゃあ納豆巻きも正だよね」という話に当然なるのだが……

 

 

これは酢飯なので、そもそも熱することとの相性が悪すぎた。

夏場、リュックの中で温まって腐敗が進んだご飯を食べているようなダメな感覚……

 

 

このダメさを誰かと共有しようと、マンスーンの方を見たら、スパム缶にチーズを挟む謎の食べ物を作っていた。

 

この食べ物については、オモコロの姉妹サイト「オモコロブロス!」のこちらの記事で解説しています。

 

名作サウンドノベルゲーム「街」のように、記事の途中で他の記事にザッピングする試みをやってみた。

やってみたかったからだが、何となく今まで読んできた記事の流れが削がれる感じがした。

今度からはやめよう。

 

 

それにしても酢飯がダメだとすると、いなり寿司もダメということになる。

いなり寿司が大好きなので買ってきたけどこれは困った……

 

 

むっ いい感じに焦げがついて見た目なんだか美味そうだけど、ダメなんだろうな困った……

 

 

 

いや美味いんかい!

いなりの皮がパリパリサクサクかつ美味いんかい!

調べてみたら「焼きいなり」なる食べ物も、結構メジャーに存在するようだ。

酢飯だけど、五目ごはんだったのが焼いてもアリになったポイントかもしれない。

 

 

雨が降ってきた。なぜ。

生来のインドア派が、「たまにはバーベキューするのも楽しいな~」と思っていたら、これ。

アウトドアの神は、真にバーベキューを愛していない者には当たりが強い。

もっとメガネに優しくしろ!!

そんなことしてたら、体育会系のイメージ通りだぞ!!!! 裏切れ裏切れ!!!!

 

 

帰ろう。

とりあえず、コンビニのおにぎりを焼くのは美味い。

それが分かったことで、この記事の目的は達成できたのだから。

 

 

ヤスミノが余った肉から漏れてくるドリップ液を、ペーパータオルで防ぎながら持ち帰る。

これも上京しなかったらできなかった体験だ。

こうして苦も楽も受け止めながら、僕らは今日も進んでいく。

 

頑張れ、ヤスミノ!

 

 

(おしまい)