「特技はイオナズンとありますが?」

 

 

 

「はい。イオナズンです。」

 

 

 

 

 

 

「イオナズンとは何のことですか?」

 

「魔法です」

 

「え、魔法?」

 

「はい。魔法です。敵全員に大ダメージを与えます

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど〜」

 

 

 

「いいですねえ、全体攻撃。とてもラスボスらしい技です

 

「ありがとうございます!」

 

「ぜひうちのラスボスとして、その力をふるって欲しいですね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

「では、そのイオナズンはあなたがラスボスとして活躍するうえで何のメリットがあるとお考えですか?」

 

「はい。主人公たちが襲ってきてもこのイオナズンで蹴ちらすことが出来ます」

 

「ダメージ量はどれぐらいでしょうか?」

 

「敵全員に100以上のダメージを与えます」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「100かぁ…」

 

 

 

「ラスボスが使う技としては少々インパクトに欠けますね」

 

「9999のダメージを与えるとか、強制的にHPを1にするとか、強化呪文を全部無効にするとか、そういう技はありませんか?」

 

「えっと…それは…」

 

「…」

 

「…」

 

 

 

「え〜、では、あなたがラスボスを志望する理由をお聞かせください」

 

「はい! 私は小さい頃からラスボスというものに憧れていて、大学のサークルでもボスとして日々研鑽に努めてまいりました!その経験を生かし、是非御社でラスボスとして働きたいと…」

 

「あ、そういうのではなくて」

 

「え?」

 

「あなたがラスボスとなる動機や設定はどのようなものなのかをお聞きしたいんです」

 

「え〜っと…?」

 

どういう背景があってラスボスとなるのか、どんな設定で主人公の最大の敵となるのか。あなたのプランを教えてください」

 

「あ…そうですね。えっと…世界征服したいと思っているので、それで…」

 

 

 

 

 

「世界征服ねぇ…」

 

 

 

「具体的にはどういう?」

 

「はい?」

 

「世界征服することでどうしたいのか、どうやって世界征服するのかなどありませんか?」

 

「そうですね…その…世界を闇で包み込んで…絶望だけがある世の中に…とか、その…」

 

「なるほどわかりました」

 

 

 

「最後に何かありますか?」

 

「あの…もし私がラスボスになったあかつきには、絶対に状態異常にならないよう頑張ります!

 

「わかりました」

 

「お疲れ様でした、面接は以上です。合否は追ってご連絡します」

 

 

 

 

 

 

 

「今の子はどうでしたか?」

 

「いわゆる紋切り型で正直決め手に欠ける印象だな。世界征服というのも動機としてはありきたりだし、ラスボスになろうという熱意も感じられなかった」

 

「そうですね…。でも、ラスボスたる理由としてはまあオーソドックスですし、それだけで不採用というのも…」

 

「会長はどうお考えですか」

 

「う〜ん…」

 

 

 

 

「彼の『世界征服』は言葉だけで、肝心のビジョンが見えん」

 

「確かにあやふやでしたね」

 

「せっかく世界征服というからには、大魔王バーンさんのような『地上を滅ぼして魔界に太陽の光を与えたい』とか、そういうスケール感が欲しいところだ」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

 

 

 

「面接はさっきの子で最後です。みなさんお疲れ様でした」

 

「結局ラスボスに採用できそうな子はいたかな?」

 

「そうですね…。何人か見込みがあるように思いました」

 

「俺も10人くらいはいいと思ったな」

 

「どれ、順番に見てみよう」

 

 

 

 

 

ラスボス候補生1人目

「この子はわかりやすくていいですよね! 動機もストレートで好感が持てます」

 

「確かに、絶大な力に溺れて調子に乗れば、ラスボスっぽい振舞いもこなしてくれそうだ」

 

「パワーを与える何かしらを手に入れる過程で主人公と複数回対戦できますし、物語の推進力にもなってくれそうです」

 

「どうですか? 会長」

 

「う〜ん…何かしらで絶大な力を得る奴ねぇ…」

 

 

 

「なんとなくオチが分かりきってて物足りないな。どうせ力に飲み込まれて自我を失うんだろ

 

「いや…そうとは限らないのでは?」

 

「それに、いまどき『富と権力がほしい』っていう動機も古臭いな。ラスボスとしての魅力に欠ける」

 

「確かに動機はチープといえばチープですけど」

 

「『力を得ただけの小物』どまりだと倒した後の達成感も小粒だしな。せめてケフカさんみたいな振り切ったキャラの魅力がほしいところだ」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

 

ラスボス候補生2人目

「この子はいいんじゃないですか? 動機もしっかりしてますし」

 

「確かに、『何が正義か』を考えさせられる重厚な物語を作ってくれそうだ!」

 

「何かしらの封印を解くという設定も少年心をくすぐられますよね」

 

「どうですか? 会長」

 

「う〜ん…封印されし魔獣を解き放つ奴ねぇ…」

 

 

 

「これ魔獣の方がラスボスじゃない?」

 

「いえいえ、ちゃんと魔獣を操って人間界を蹂躙してくれるはずですよ」

 

「なんか封印を解いた直後に『こんなはずでは…』と言い残して魔獣にひねり殺される予感がする。そんな奴はラスボスの器じゃないだろう」

 

「う〜ん…。そこは彼にも頑張ってもらって…」

 

「『愛する女性が…』って動機もありきたりだし、ラスボスに同情できる過去があると冷めるんだよな。せめてデスピサロさんみたいなドラマがあるといいんだが」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

 

 

ラスボス候補生3人目

「この子はどうですか? 暴力虐殺が好きなクレイジー野郎です」

 

「こういう小細工抜きの清々しい悪役は物語の黒幕にふさわしいな」

 

「常人には理解できないイカレ具合は、まさにラスボスの風格ですよ」

 

「どうですか? 会長」

 

「う〜ん…人の心を持っていない純粋な悪党ね…」

 

 

 

「噛ませ犬キャラと紙一重じゃない?」

 

「え〜! 明らかな極悪人じゃないですか」

 

「ラスボスは悪じゃなくて悪役だろ。何かしら美学なり哲学なりを持ってなければ、それはただのサイコ野郎だ」

 

「でも、この子がラスボスだったら、『倒さねば!』というモチベーションも高く維持できると思いますよ」

 

「主義主張のないシリアルキラーを成敗しても害虫駆除と同じ手応えしかないよ」

 

「そうでしょうか…?」

 

「純粋悪=ラスボス格ってわけでもないしな。シックスさんみたいなカリスマ性があれば話は別だが」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

 

 

ラスボス候補生4人目

「彼はどうでしょう? こういうあっと驚く展開は皆好きですもんね」

 

「ラスボスの正体が「主人公の父」と判明した時の衝撃は話題を呼びそうだな!」

 

「動機も『彼には彼なりの正義があったんだ』と思わせる感じでいいですね」

 

「どうですか? 会長」

 

「う〜ん…実は主人公の父親って奴ねぇ…」

 

 

 

「別に驚きの展開でもなくない?」

 

「そりゃ、これだけ見たらそう感じますけど、丁寧に伏線を張ればなんとか…」

 

「いまどき、物語中「肉親の不在」について伏線張った時点で、この程度の展開はみんな予想するよ」

 

「『父親越え』って熱い展開なのにな…」

 

「あと、こういう場合って黒幕に操られてるパターンの方がしっくりくるな」

 

「確かにそのケースもありがちですけど」

 

「どのみち肉親を倒す時点で後味も悪くなっちゃうし。せめてジェクトさんみたいな泣ける演出があればいいんだが」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

 

 

ラスボス候補生5人目

「この子はどうでしょう? 」

 

「どうやって力を得たか次第ではいいラスボスになりそうだな!」

 

「あれだけ人々を苦しめていたものの正体が…というので、メッセージ性の強い物語にしてくれます」

 

「どうですか? 会長」

 

「う〜ん…雑魚が化けてラスボスになってたタイプねぇ…」

 

 

 

「どうやってとどめさすの?」

 

「別に殺さなくても…」

 

「でもコイツ死ぬしかなくない? ラスボスとして散々猛威をふるって犠牲者を出しといて最後にコイツだけ報いを受けないエンドってアリ?」

 

「そこで主人公の不殺の信念を貫くんじゃないですか」

 

「見逃せば甘ちゃんって言われるし、始末すれば後味悪いしで、どっちにしても気分悪いよな」

 

「会長、後味めちゃ気にしますね」

 

「主人公の罪悪感をいたずらに煽るだけであんまり得しない気がする。皆が皆、泉新一くんみたいに的確な判断をするとは限らんだろ」

 

「それを言われると…」

 

「では…」

 

 

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