しがない人生を送ってきました。
高校を卒業して、アルバイトを転々としながら過ごしていたら、気づけば30半ば。
ようやく焦りを感じて、知人に頼みこんで小さな出版社を紹介してもらい、正社員としてなんとか採用してもらいました。
仕事はできないほうだったけど、20年間、私なりに真面目に勤めてきました。
でもある日、私は、ふと思い出したんです。
私は、有名人になりたかったのだと――。
自分の気持ちに正直になりたい。残りの人生は、なりたい自分でありたい。
そんな気持ちがいつしか抑えきれなくなり、半年前、私は仕事を辞めました。54歳でした。
有名になるには、テレビに出るしかない。芸能人にならなくては……。
退職は、芸能の道を志すための、一大決心でした。
そんな私の決意を、神様が評価してくだすったのでしょうか――
ある日突然、私は……
速報されるようになったのです。
「……なんで?」
私は気味が悪くなりました。誰が、なんのためにこんなことを……。
怖くなった反面、私は正直うれしかった。
「ドリームズ・カム・トゥルー!」
神様にそう言われているような気がして。
きっと神様が、私を有名人にしてくれたんだって!
私のつまらない「ただの地味な日常」が、全国ニュースで速報されている!
承認欲求が満たされていくのを感じました。
そして私は一日中、速報され続けました。
あのNHKも……!
日テレも……!
フジだって……!
なぜだかわからないけど、すべてのテレビ局が私に注目している!!!
「……あれっ!?」
「テレ東は速報してない……!!!」
「テレ東は、いつもマイペースですねぇ……」
(おわり)