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こんにちは、オモコロ編集長の原宿です。オモコロは平日毎日更新で、笑える記事や漫画をネットに配信し続けているメディアです。活動を始めてから今年で丸10年と、結構長いことやってます。

 

オモコロには40人ぐらいのライターが参加しており、大体ひとり月一本のペースで記事を書いてもらっています。中にはプロの漫画家の方もいますが、その原稿をもらった時に僕が言うことといえば、多くの場合は次の3つです。

 

「面白いですね!」

「最高ですね!」

「これでいきましょう!」

 

だってまぁ面白いから……。他に何と言葉を紡げばいいのでしょう……何の花に例えられましょう……。しかし、もしかしたらこんなボキャブラリーが少ないことをしているのは僕だけで、世の編集の人は作家さんともっと違う接し方をしているのではないでしょうか? そうじゃなかったら困る、という気持ちもどこかにあります。

 

今回はその辺りのお話を、編集者としての実績がスゴすぎる方に伺える機会に恵まれました!

 

 

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株式会社コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平さん

講談社に在籍時、井上雄彦「バガボンド」、三田紀房「ドラゴン桜」、安野モヨコ「働きマン」、小山宙哉「宇宙兄弟」などの編集を担当。漫画以外にも、伊坂幸太郎「モダンタイムス」、平野啓一郎「マチネの終わりに」など、小説の編集も手がける。2012年に講談社を退社し、株式会社コルクを設立。出版社のためではなく、作家のために働く「作家エージェント」という働き方を提唱している。

 

 

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「いや……マジでめっちゃくっちゃスゴい編集者の人じゃん……」

 

編集実績の天と地ほどの開きに、一瞬にしてガチガチになる僕。「こんなのイチローと野球始めたばかりの小学生を対談させるようなもんだよ!」と思いましたが、それはそれで面白いかもしれませんので、どうぞ最後までお付き合いください。正直、死ぬほど衝撃を受ける対談となりました。

 

 

作家と編集者は友達じゃない!

 

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佐渡島さんはどういう距離感で作家の方と付き合っているんですか?

 

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僕は意外とべったりしないんですよ。作家と編集者って、友達ではないと思ってるんで。

 

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友達ではない!

 

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友達になると喧嘩しづらいんですよ。喧嘩って知らない人同士とか、二度と会わない人となら簡単にできるんですけど、友達だとそのあと何度も会ったり、周りの人ともつながってるから、自然と喧嘩しづらい環境が生まれますよね。つまり、色んなことが“なぁなぁ”で進むようになるんですよ。

 

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“なぁなぁ”で進むとやっぱりダメですか?

 

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作家と編集の関係って、「原稿読みました!最高です!オッケー!」みたいな感じでサクサク進むのがいいと思ってる人もいるかもしれませんが……

 

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あ、僕のことだ。

 

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編集者にとって、作家と“なぁなぁ”の関係があるってことは、短期的には楽なんです。でも作家と編集はビジネスがきっかけで出会ってるから、そこで動いていくお金が大きいものにならないと結局長期的に会えなくなるし、本当の意味で仲良くなれないんですよ。

 

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なるほど……

 

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だからもし作家のことを友達だと思って長期的に付き合おうとするならば、ビジネスをしっかり大きくしていくということが重要で、そのためにはお互い妥協無く話し合うということが絶対必要です。やっぱり作家と編集って、一緒にいい作品を作り上げるために組んでると思うんですよね。だから“なぁなぁ”の部分が生まれても、お互いにとって何一ついいことないんですよ。

 

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“戦友”と書いて“ダチ”と読むためには、衝突も必要ってことですね。“なぁなぁ”な雰囲気を作らず、かつ作家から信頼される編集者になるためにはどうしたらいいんでしょう?

 

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僕はとにかく思ったことを言います。思ったことを言った回数が多い人とは、自然と長期的な付き合いになると思っていて。それをただただ続けていくって感覚ですね。

 

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初対面からでも言うんですか?

 

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初対面でも思ったことがあれば言いますね。もしそれで嫌われちゃったら仕方がないと割り切ってもいます。思ったことを言うためには、感情的なトラブル、つまり「相手が自分を嫌うかもしれない」というトラブルを怖がらないことが重要です。

 

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言う時に「俺の方が間違ってるかも…」って、揺れたりしないんですか?

 

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もし僕が間違ってたら、「それは違うんじゃない?」ってことを相手が言ってくれるかもしれないじゃないですか。だからお互い正直な方がいいに越したことないんですよ。

 

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うわー! 間違ってても、相手が正してくれるなら言っていいんだ! 編集に限らず、そういう視点で人間関係を見たこと自体、全くなかったですわ……。

 

 

よくわかんないこと言ってる人は才能がある!

 

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これもうズバリ聞いてしまいますが、編集者が作家に対する時に一番大事なことって何でしょう?

 

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必要なのは、才能への理解ですね。世間の人って、すごい才能を持ってる人はむちゃくちゃ面白いこといきなり言うんだろうなって思ってるところがあるでしょ?

 

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確かにそんな感じありますね。

 

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僕も編集をやる前はそう思っていたんです。でも、全然そんなことないんですよ。

 

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全然なんですか!?

 

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どっちかって言うと、ちょっとよくわかんない話から凄い作品が生まれたりすることがよくあります。僕、安野モヨコの「働きマン」が生まれる瞬間に立ち会ったんですけど。

 

 

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めっちゃ羨ましい。

 

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安野さんが居酒屋で言ってたんですよ。「次の漫画は、『働き、マン!』ってウルトラマンみたいにポーズを決める女の人の話!」って。ストーリーとか何にも決まってないけど、本人の中で働きマンポーズをすることだけは決まってたみたいなんです。それで「超面白そうでしょ!?」って言われたんですけど、僕にはどこが面白いのか全くわからなかったんです。

 

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まぁ、それだけ言われてもなって感じはしますね。

 

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他にも伊坂幸太郎さんの「モダンタイムス」の時には、伊坂さんは「検索すると急に人がやってきて捕まるんですよ…」とだけ言ってて。よくわかんないなあって感じで。

 

 

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いきなりそんなこと言われたら、「この人ちょっと怖いな」って思っちゃいそうです。

 

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あとは三田紀房さんの「インベスターZ」もそうですね。最初三田さんが言ってたのは、「中高生が投資部って部活やってて、そいつらがめちゃくちゃ金儲けて学校を牛耳ってるんだよ」と。これも最初よくわからなかったんですが、投資に関する知識をマンガに落としこんでいけば、「ドラゴン桜」のような形でイケるなと。

 

 

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名作って「ワケのわからない一言」から生まれるものなんですね!

 

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他人はわからなくても、作家自身はそのアイディアに熱狂してるんですよ。作品のイメージはすでに頭の中にあるけど、言語化が追いついてないというか、作家自身もうまく説明できないんですよね。だから言葉にするとワケがわからないんだけど、面白い作品にはその種のワケのわからなさが絶対に必要だと思うんです。打ち合わせとかしてると、「これ面白い!絶対ウケるぞ!」って全員ですごく盛り上がる瞬間がありませんか?

 

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ありますね。

 

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でも言語でしかコミュニケーションしてないのに、それだけ盛り上がるってことは、お互いの頭の中にすでに同じイメージがあるってことですよね? それってもう“世の中にすでにあるもの”なんですよ。

 

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なるほど! あるあるネタで盛り上がってるようなもんってことですね。

 

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そう。だから実際作ってみると、「なんか盛り上がった割にはそこまで面白くならなかったなー」ってことが往々にしてあるんです。

 

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いやあ、わかります。オモコロの記事でもよくありますそういうの。

 

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面白さには新奇性っていうものが常に必要で、だから“ワケがわからない”って要素はすごく重要なんです。うまく言葉にできないものが世に出るからこそ、「こんなの今まで読んだことなかった!」って驚きにつながるわけで。僕も編集をやりだした頃は、作家がよくわからない話をするたびに反対してたんですが、最近はわからない話を聞くと「あ、いいな」って思うようになりました。

 

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なるほど。ワケがわからないことを言ってる人ほど、化ける可能性があるのかも。オモコロにも「何言ってんだこいつ」って思う人がたくさんいて嫌だなと思ってたんですが、これからはワケわかんないこと言ってる奴の可能性も信じてみます!

 

 

作家が売れるために必要なのは“こだわり”。

 

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作家さんに会った時に「この人は才能あるな。売れるな」って思う時はありますか?

 

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そうですね。まず前提として、僕は面白く革新的なことをやろうとすればするほど、世間がすぐに賛同することはないと思っています。僕の関わっている漫画で言うと、曽田正人の「テンプリズム」という作品があるんですが。

 

 

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読んでます!

 

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漫画って「どうかと思ってたけど、この巻から超面白くなってきた!」ってことがよくありますよね?「テンプリズム」もそうなんですけど、始まったばっかりの頃って間口を広くとっておくから、王道の設定になってくるんですよ。いきなりド変化球から始まる漫画ってサブカルっぽくなっちゃって、深い感動までいかずに設定の面白さで終わっちゃうんです。

 

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最初は面白そうだったのに、失速していく漫画っていうのは確かにありますね。

 

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僕が信じてる作家には「直球だけど新しい」ってことをやって欲しいから、間口は広くとりたいんです。「テンプリズム」が始まった時も、「これぞ王道ファンタジー!」という宣伝をしていたんですけど、世間はいつもの曽田正人作品らしさがないから、「こんなの違う!」っていう反発がすごくありました。でも僕はこの作品は絶対『曽田正人節』になっていって、王道だけど今までにないファンタジーになっていくだろうなと確信してたんですよ。実際5巻が出た後から、「なんじゃこれ!面白い!」という風に世間の反応も変わってきているなと感じています。

 

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確かに5巻から主人公であるツナシ以外のキャラが目立ってきたりして、この後の展開から目が離せなくなりました。

 

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だから僕は、世間には“作家の才能を信じる”という視点はなくて、みんな今そこで起こってる現象しか見ないんだなという風に思ったんです。これは漫画や小説に限らずなんですが、世の中に革命を起こしたような企業って、作った瞬間にバーン!と話題になることってほとんど無いんですよ。苦しみながら何年も続けて、気がついた時には、たくさんの人がそこに吸い寄せられてるという感じで。作家が売れるということも、そういうことなんじゃないかと思っています。強いこだわりを持ってやり続けている人間に、周囲が吸い寄せられていく。

 

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売れる作家に必要なのは「こだわり」ということでしょうか?

 

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はい。その中でも、利他心があるこだわりかどうかっていうのを見ますね。

 

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利他心。

 

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他人を喜ばせたいとか、楽しませたいという気持ちですね。結局人って、自分のためだけに頑張り続けることはできないので。それは作家だけじゃなく経営者でも、「これがあると世の中が必ず便利になる!」とか、「これがうまくいくと、みんな超喜ぶはず!」みたいなイメージがあるから頑張れるんですよ。

 

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利他心の反対、利己心だけだと売れないってことですか?

 

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うん、利他心が無い人の作品っていうのは“趣味”なんですよ。もちろんそれが悪いわけではないし、「自分を楽しませるためにやってます」というのも、ある種の才能ではあるんですけど、僕がサポートしたいタイプの才能ではないということですね。

 

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こだわりと利他心か…。こだわりの強さのレベルで言うと、例えば佐渡島さんに「これだと売れないよ」と言われて、「そっか~売れないならやめよう」って簡単に引き下がってしまう人はダメってことですか?

 

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そうですね。単に売れないからやめるって言うんじゃなくて、じゃあこういう風に書いたら売れませんか?って言ってくる人の方が、作家として伸びると思いますね。

 

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あまりにもタメになりすぎるコルク佐渡島さんのインタビュー。編集という仕事にさらに踏み込む【後編】はこちらです!

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